基本情報
【作品名】 ミネルヴァの報復
【著者】 深木章子
【初版発行】 2018年9月 日本推理作家協会賞ノミネート作品
【ジャンル】 サスペンス・スリラー・推理小説
あらすじ
20年ぶりに会う大学の先輩である辻堂から、妻が離婚に応じないと相談された弁護士の横手皐月。辻堂は愛人のマンションに転がりこみ、ヒモ同然の暮らしをしていた。妻の弁護士からは、愛人が妻に嫌がらせをしてきたとの連絡が。愛人からは妻から損害賠償請求が来たため、正式に横手に弁護依頼をしてきた。ところが、裁判の直前に依頼人である愛人が失踪。さらに妻が弁護士会館で何者かに殺されてしまう。辻堂と妻と愛人の三角関係。二転三転する事件。弱った横手は友人である弁護士・睦木怜に相談する。果たして彼女は真相にたどり着けるのか。
ミネルヴァの報復 (角川文庫)
元弁護士の著者だからこそ描ける弁護士業界の奥の奥。読者の予想を裏切り続ける作家・深木章子の最高傑作がついに文庫化。推理作家協会賞候補作、傑作本格ミステリ。
感想
タイトルと表紙を見てKindle Unlimitedでダウンロード。初めて読む作家さんです。
今回のレビューは少しネタバレが入ります。
表紙はフクロウのイラスト。去年ハマった漫画の「約束のネバーランド」(原作 : 白井カイウ、作画:出水ぽすか/ 集英社)に出てくるミネルヴァさんもフクロウのモチーフを使っていたけど組み合わせの意味を知らず、読み始める前に早速雑学の知識がついた。
ミネルウァ(ラテン語: Minerva)は、音楽・詩・医学・知恵・商業・製織・工芸・魔術を司るローマ神話の女神。知恵と戦いの女神とも。抱えているフクロウは知恵の象徴とされる
著者の深木章子氏はもともと弁護士で、60歳を機に執筆活動を始めた方らしい。そんなわけで、本作は弁護士業界や周辺の描写についてとてもリアルに描かれており、この点は法律や裁判の豆知識が知れるだけでも結構面白かった。
内容についてはしばらく読み進めるにつれてちょっと違和感があった。最初に思ったことは、主人公である横田弁護士(彼女はのちに好戦的な自分の性格をミネルヴァに例える)がやや大袈裟なほどに突っ走るタイプに描かれる一方で、脇役のように出てくる友人の睦木弁護士はものすごくエレガントに描かれ、主人公にヒントを与えたり、最後も結局彼女が解決してしまうという立場。
横田は事件解決に向け奔走するが、最後の最後まで大きな成長もなくぱっとした活躍がなされない。
横田の直情的、短絡的すぎる態度への描写は時々読者もうんざりするのではないか、この著者は主人公が嫌いなのか?と思ったらなんのことはない、この「ミネルヴァの報復」という小説は”弁護士睦木怜の事件簿” という作品のどうやらスピンオフのよう。
つまり本当の花形探偵は脇役かと思った睦木だったというだけの話だったんだけど、それでも横田はなにかとちょっとかわいそうな使われ方かな。あえて正反対のキャラクターにしたというようなことが解説で書かれていたけど、結果的に睦月のスマートさを引き立てる当てキャラみたいになってしまっている感が拭えなかった。一応主人公なのにね。
モチーフに沿って全体を表現すると、この小説はミネルヴァがそのフクロウに手を噛まれる話。そしてタイトル回収は一番最後に行われ、報復の意味が提示されるのだけど、その”報復”内容もちょっと個人的には腑に落ちないというか。
面白くないのとは違うと思うけど、全体的に登場人物の行動原理に引っかかりが多い。一応なぜそうしたか、などど書いてあるものの、その行動に至るまでの理由としては浅いのではと思いたくなるような描写やご都合主義も多い。そんな積み重ねでなかなかどの登場人物にも感情移入が難しかった。
文章自体は読みやすい方で、伏線もたくさん貼ってある(回収忘れも数点)。たまに「東京家庭裁判所の隣の東京弁護士会第三支部」くらいの長さの漢字がやけに続くのは弁護士ミステリのご愛嬌かな。